夏至
夜が明けるのが一番早い日、と思っていた頃があった。
実際のそれは、もうすでに過ぎていて、夏至というのは、昼間の時間が一番長いということらしい。
いずれにしても、季節は真夏に向かっていくが、日没は早まり、夜は確実に長くなっていくのだ。
寝苦しい夜は、黙っていても過ぎて、布団のぬくもりが恋しくなる朝が来る。
その繰り返し。
爪を切らなければ、と思う。
長い爪が苦手な私は、白いところが見えてくるともう落ち着かない。
爪が伸びると、生きているんだと感じる。
病気のときにも爪は伸びた。
入院中に、爪切りを借りた。
父の遺体を見たとき、ああ、もうこの爪は伸びないんだなと思った。
息をしていないことよりも、身体が冷たいことよりも、その爪が伸びないことが、私に死を感じさせた。
その冬が過ぎて、夏が来て、また冬となり、私の怒りや悲しみには関係なく時は過ぎていく。
今日は、帰って爪を切ろう。
次に爪を切るときの自分はどんな状態なのか、想像もつかない。
光が眩しい。
眩しさに目を閉じた瞬間、この世の果てがやってくるとしたら、それはそれで悪くない、と思う。