さなみん

石をひとつ投げ込んでみる心のなか

行き場

物干し竿は固定した。

ベランダのサンダルは、玄関に避難した。

 

朝起きて、ベランダのサッシを開けると、容赦ない雨が吹き込んできたので、慌てて閉めた。

行き場を失った二酸化炭素が、もわりという湿気になって、部屋の中に淀んでいる。

その二酸化炭素を排出したのは私。

 

ハーフタイムにチャンネルを替えた。

ニュースが、昨日の台風や土砂崩れによる被害を報じている。

慣れ親しんだ土地が、そのものが、一瞬にして凶器となって暮らしや命を呑み込んで行く。

生死を分けるものには、明確な基準などないのではないか、などと思う。

ランダムであることの無慈悲は、そうでないことと比べて、どちらが残酷なのか。

 

後半が始まった。

私はその悲惨なニュースから一転して、人の生き死にに関わらないサッカーゲームの世界に戻って行く。

そのあっけないほどのたやすさ。

しかし、だからこそ、生きていける。

 

長靴を履いて行こうかと迷う。

私の逡巡など、それくらいのものだ。

 

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これは、数年前の写真。

ここ数年のうちに、あっと言う間に畑地は消え失せて、似たような造りの建売住宅と大規模マンション群に占領されてしまった。

新しく出現したそこには、耳心地のいい、小洒落た名前までつけられている。

コンクリートアスファルトの街は、大雨が降ると、行き場のなくなった水が道路にあふれる。

 

断続的に降り続く雨が、小康状態になったのを見計らって、再び窓を開ける。

そして淀んでいた空気と、心の両方を、排出する。