さなみん

石をひとつ投げ込んでみる心のなか

スミダノハナビ

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黄昏の霧雨がまとわりつくように僕を包んだ。

逃れようと小走りになる。

最後の曲がり角を曲がると不意に彼女の白い腕が、袖をかすった。

 

掴むのでもなく、握るのでもない。

むしろ、つねるほどに掴まれたい、と思ったのは、ほんの一瞬のこと。

だが、掴まれたなら、たぶん僕はそれを振り払っただろう。

鞄の上に溜まった雨しずくを払うみたいに。

 

彼女の腕は、追って来ない。

僕の思惑などとうにお見通しだ。

 

心なしか霧雨も僕を離した。

もう僕なんかには用がないということだろう。

遠くの空から、青が戻ってくる。

 

彼女の腕の行方を確かめたくて、振り向いた。

雨が上がったよ、くらいは話しかけてやってもいいような気がした。

君の好きな黄昏の空だよ。

 

追われれば逃げるくせに、ときどき、追ってきているか確かめたくなる。

 

さっきかすったその曲がり角に、腕が戻っていくのが見えた。

白いガクアジサイが、抱えた雨のしずくをこぼさないように、耐えていた。

雨上がりの合図のように、遠くで花火の音がする。

高層マンションに囲まれた古いアパートからは、見えるはずもない。

青を映した部屋で、彼女が揺れていたあたりを、その白い腕を求めるように眺めた。

 

抱えていた雨のしずくは、もう落としてしまっただろうか。

あれは、僕にとっても、たぶん大切なものだったのに。

 

また花火の音がする。

青が攻めてきた。

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