ふり
旅に出たくても出られない人から見たら、旅日記は憧れ半分、淋しさ半分。
食事がままならぬ人から見たら、ご馳走日記も、羨望半分、嫉妬半分。
ときによって、そのバーが、半分よりこっちに来たりあっちに行ったりする。
純白と漆黒の間に、無数のグレーゾーンがある。
スーパーに行くのに、うんと遠回りをしていた日々があった。
最短距離には、保育園があり、ママと遊ぶ子らの歓声が響く公園がある。
私はそこを通らないことで、心を保った。
1枚の写真をアップするとき。
ひとつの記事を書き上げるとき。
それができない人のことを想像する。
ごめんね、と思う。
運動会も夏休みも嫌いだった。
でも、それを言ったことはない。
みんなと同じように楽しみなふりをして、楽しんでいる演技をした。
楽しそうな笑顔の奥に、潜んでいるものが気にかかる。
ほんとうは、それは「ふり」なんじゃないかって。
お弁当を食べ終った。
壁を隔てた外側で、はしゃぐ子供らの声がする。
耳を塞げ。
手を休めるな。
気づかないふりをして、つむじ風のようなそれらが、過ぎるのを待つ。