さなみん

石をひとつ投げ込んでみる心のなか

コンビニにて

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その女性はいつも怒っていた。

店長からきつく言ってもらうから、という言葉がこぼれたところをみると、店長は別にいて、その人は主任か何かなのか、ただの先輩店員にしては口調が厳しい。

あなたの言い方だけで充分にきついです、と陳列棚を物色しながら思っていた。

 

新しく入ったばかりであろう女性店員は、言葉のたどたどしさと胸のネームプレートから、大陸からやってきた人だろうと推察できる。

ひたすら「ゴメンナサイ」を繰り返す店員に、客の前で怒りをぶちまける先輩店員の姿を何度か見て、私はそのコンビニを利用しなくなった。

 

今日、2ヶ月ぶりくらいにその店を覗いた。

接客をし、レジを打っていた店員さんを見て、初めは誰かわからなかったが、ネームプレートを見て、いつも怒られていた人だとわかった。

驚いたのは、以前とは別人のように動きがきびきびとしていたからで、言葉もずいぶんと流ちょうになっていた。

 

隣のレジには、もうひとり見覚えのない顔の男性店員がいて、カタカナで書かれたプレートの名はやはり日本のものではなかった。

言葉は、すこしたどたどしい。

 

カレー弁当の袋にスプーンが入っていないことに途中で気付いた客が、苦情を言いに戻ってきた。

まだ業務にも日本という国にも慣れないでいる男性店員が入れ忘れたものらしい。

詫びる彼の横に、すっと件の彼女が身を寄せて、客に頭を下げた。

「申し訳ありませんでした。」

あらためて袋にスプーンを入れ、再び頭を下げ、客が帰った後、女性はなにごともなかったように自分の制するレジに戻り、てきぱきと客をさばいていった。

 

以前、怒ってばかりいた先輩店員の姿はなかった。